戻る富士登山記 (1995年8月)

8月は富士山の登山シーズンである。

8月中旬14:00、富士山五合目2300mを出発し、暫くは緩やかな道のりで下山の人と出会いながら登っていく。
天気は晴れ、東京は夏真っ盛りで半袖でも暑いがここはちょうどいい。
ところが下山の人は防寒着姿で、頂上の気温はどれだけかと思ってしまう。

14:30、六合目2390mの安全指導センタに着く。
ここからが登山の本番で、登山シーズンだけに大勢の人が次々に登って行く。
道は石だらけだが、その道を馬が登山客を乗せて平気で登って行くので、それにつられて登ってみるがどんどん離される。
やがて岩場にさしかかると、さすがに馬もここまでである。

15:05、七合目2700mに着く。
案内図では六合目から七合目まで60分となっているが実際は35分程で登ってしまう。
馬につられてかなりのハイペースで来てしまったが、あまり速く登ると高山病が心配になってくる。
更に登っていくと山小屋が点在してくる。

16:20、八合目3080mに着く。
登るに従って大きな岩場になり、急な所は登山用のチェーンが張ってあるが、登山客は一列で途切れることなくどんどん登って行く。

17:35、本八合目3400mに着く。
まだ頂上まではかなりあるが、辺りはだんだん薄暗くなってきたので今日はここに泊まる事にした。

近くの山小屋に入ってみると中は結構広くて宿泊客もそんなに多くない。
早速、寝床に案内されると大部屋が二段の床になっていて布団が沢山敷いてあるだけだ。
山小屋だからこんなもんだろうと思ったが、係りの人が言う事にびっくり。
一人分の床はなんと幅30cm程だと言うのである。
雑誌では読んだ事があったが本当であった。
仰向けに寝ないで横向きに寝て下さいとの事で、登山客がよほど大勢泊まるらしい。
先に寝た方が勝ちだろうと、すぐ夕食を食べる。
夕食といっても出てきたのはカレーである。
それも仕方ない。
なにせ、石や岩だらけの富士山には水が全くなく、水は運ぶ訳だから本当に貴重で、カレーに付いていたコップ半杯の水は有るだけでもうれしい。
と言う訳でカレーを食べた後はすぐ寝床に就いて、明日の富士山の日の出御来光を見る為に早く寝る。

ところが、今になって頭痛がしてきて、どうやら高山病にかかってしまったようだ。
なかなか眠れない。
そうしている内に宿泊客がどんどん押し寄せてきて、とうとう人が一杯になり本当に一人30cmになってしまった。
隣同士横向きにぎっしりでどうにも大変な所に来てしまったものである。
係りの人が懐中電灯を持って詰めようとするが宿泊客とトラブルになってしまい、やっと別の場所に分散して納まる。

数時間すると周りがザワザワして目が覚める。
もう出発の人達が準備していて、間もなく宿の人が皆んなを起こす。
まだ真夜中の1:00である。
普通は2:00に起きれば御来光に間に合うが、今日は登山客が混んでいるので1時間早いとの事。

宿から弁当を受け取って早速出発する。
ちなみに宿代は¥7000、あの混みようで高いけど仕方ない。
外はまだ真っ暗でかなり寒く、セーターを着込む。
暫く登るがどうも頭痛がひどくなってくる。
初心者はほとんど高山病になるらしいが、標高3500mを越え空気が薄くなって増々ひどくなり、とうとう近くの山小屋で酸素ボンベを買ってしまう。
それは五合目の売店にもあったが2倍の値段である。

暫く休憩していても、登山客は全く途切れる事なく次から次へと登って行く。
皆んな暗い中をヘッドライトをつけて登り、その灯りが線になって登山道を下から上に続いていく。
この時間になって増々人が増えてきて、ある人に聞くと夜11時から登ってきたという。
徹夜で登ってくる訳だ。

だんだん夜が明けてきて頂上も見えてきた。
しかし、道は岩場で険しく相変わらず大勢の人がいる。
するともうすぐ頂上なのにだんだん道に人が座り始めて、登りたくても人が一杯で登れなくなる。
いよいよ御来光の瞬間が間近なのであった。
皆んなそれぞれの場所でカメラの準備をして、じっと待つ。
山頂にも既に沢山の人がいて人の列が下へずっと繋がっている。
周りは一面の白い雲の上で、まさに雲のじゅうたん、まるでその上を歩けそうである。

間もなく山頂から一斉に歓声が上がり、空が真っ赤に染まってきて、一面の雲海も真っ赤に染まってくる。
やがて、その中心からひときわ輝く太陽が昇り、みるみるうちに大きくなる(写真1)。
まさに荘厳な光景、数分の出来事である。
その太陽が昇るにつれて周囲は赤から黄色に変わっていく(写真2)。

(写真1) 真っ赤な太陽が昇り始める。

(写真2) 太陽が昇り切って空は黄色に変わる。

太陽がすっかり昇ると、その光を受けながら再び頂上を目指して登り始める。

最後の岩場を登るととうとう頂上に着く。
そこには富士山頂浅間神社奥宮(右写真)があり、他に休憩所や出店があって大勢賑わっていて、まるでお祭り広場のようである。

自販機もあって缶ジュースを買うと1本¥300で、通常の3倍であるが輸送費がかかるから仕方がない。
それを買って、宿からの弁当を頂上の岩場で食べると早朝でとてもすがすがしい。
下から登山客が次々に登ってくるのが見える。

その後、頂上を一周する「お鉢めぐり」をしてみる。

歩き始めると最初に電話局があり、郵便局、売店、宿泊所と続く。
そして更に歩くと富士山測候所(右写真)がある。
テレビでもよく見かける場所で、その日の富士山の気象情報が書いてある。

離れたところには残雪もあった。
そういえば富士山の初雪は例年9月に聞くけれど、年中雪が降る富士山ではいつ初雪なのだろう。
どうやら、その年の最高気温の後に降った雪が初雪らしい。

更に暫く歩くと、頂上から見える360゜パノラマの案内の円盤がある。
しかし残念ながら、頂上は晴れているがその下に一面の雲がある為風景は見えない。
雲がなければさぞかし素晴らしいパノラマが見えただろう。

頂上をゆっくり一周するとおよそ1時間かかる。
その後休憩して下山を始める。
下山は登りとは別のコースになっていて極めて単調なコースである。
じゃり石の道をジグザグに下る繰り返しになっていて途中には山小屋もない。
遠くに登りの人の列が見える。
下りは速く、頂上から2〜3時間で五合目まで降りてしまう。

五合目にはこれから登る人達が沢山いる。
これからあの大変な道のりを皆んな知ってか知らずか登って行くんだなと思う。